別に僕は何でもな医師。

中堅内科医の独り言、健康コンサルタント

だから私は筋トレで追い込むのをやめた...

コロナ禍以後、フィットネスブームにより多くの24時間ジムが誕生している。

 

私も筋トレは習慣であり、24時間ジムにも早朝から通っている。

youtubeでは数多くの筋トレインフルエンサーも活動しており、トレーニング方法を参考にすることも多い。

 

筋トレは肉体的にもメンタル的にも最高!といった風潮があるが、デメリットはないのだろうか。

 

 

ベンチプレス、スクワット、デッドリフトなどで重要視される「腹圧」というものがある。

レーニングベルトをきつく締め、腹圧をかけることでコルセット代わりにするような感覚だ。

この「腹圧をかける=いきむ」という行為はあんまり体に良くないのではないか?と、ふと疑問に思った。

 

例えば、便秘と脳卒中は関連があるという報告もあり、便秘による排便時の「いきみ」が頭蓋内圧上昇をもたらすことが影響しているかもしれないと言われている。

 

筋トレはすべてのソリューションではなく、むしろリスクもあるのだということを調べてみた。

 

 

筋トレ中の血圧上昇

かなり昔の報告であるが、ボディビルダーがレッグプレスを行う際に、一時的に収縮期血圧が300台まで上昇したという報告がある。

 

筋トレ中にはある程度血圧が上昇してしまうことが多いが、適度な筋トレであれば、その後に血管内皮細胞より一酸化窒素が出ることで、血圧は低下方向に働く。

 

しかし、過度の負荷をかけることで一過性ではあるものの、とんでもない血圧高値をもたらすこともあるのは事実だろう。

若年者や運動を長く続けている人であれば大きな問題はないかもしれないが、運動を始めたての人が急に高重量を扱うのは危険である。

 

筋トレと血管

全てが血圧上昇のみと関連づけることはできないが、ウエイトリフティング中に大動脈解離を発症した症例や、農家で重い荷物を運搬した際に頸動脈解離を発症した症例などが散見される。

 

高強度のレジスタンストレーニング動脈スティフネス(動脈の壁が硬くなり、伸展性が乏しくなる状態)を悪化させる可能性も指摘されている。

軽度から中等度レベルではそういった報告はなく、メリットを享受できるようだが、どの程度が高強度になるのか、ということについてはなかなか判断が難しい。

 

専門トレーナーがついていないのであれば、下記のようなサイトで、最大心拍数や体感でのしんどさをベースにして判断していくしかない。

日本健康運動研究所-運動強度の設定の仕方と測り方

 

いずれにせよ、もうだめだ、もう1repも上がらないと息も絶え絶えになるほど追い込む=高強度であろう。

 

px.a8.net

 

要注意なひと

もともと高血圧、睡眠時無呼吸症候群脂質異常症、糖尿病などの既往があり、喫煙歴や家族歴もある、となると運動許容度についてはかかりつけ医に相談するのが望ましい。

私の思う要注意人物は、

・50-60歳代の男性

・喫煙歴がある

・未治療の高血圧症、脂質異常症、糖尿病

・睡眠時無呼吸の可能性がある (家族から息が止まっていると指摘されたことがある人)

 

こういった背景があり、健診で運動したほうがいいですよ、といわれ突然ジム通いをするのはおすすめできない。現状の疾患の程度を確認し、一度は人間ドックなどで全身スクリーニングした上で運動療法を医師の指示のもと開始したほうがよい。

 

※もともと背景に脳動脈瘤や大動脈瘤、血管奇形、結合織病(Marfan症候群など)がある人は当然注意が必要であるが、これらの疾患は調べていないと気が付かない場合はほとんどである。

遺伝性疾患については家族歴を聴取すれば判明する場合もある。

※やや話は脱線するが、心配になるがあまり、その他の動脈瘤や血管奇形を調べるために脳ドックを受けたり全身を隅々まで調べようとするのはおすすめできない。

これはまた別記事で書こうと思う。

 

運動と心房細動

なかやまけんみゃくんです!のCMでおなじみになりつつある心房細動。

iyakutsushinsha.com

 

非常に多い不整脈であり、年齢とともに増加する。

脳梗塞の発症や長期罹患による将来的な心不全なども懸念される。

 

ラソンランナーなどの持久系アスリートには心房細動や冠動脈石灰化リスクが高いことが知られている。

ラソンのみならず、近年の研究でもアスリートは心房細動を発症する可能性が非常に高いことが示されている。

Risk of atrial fibrillation in athletes: a systematic review and meta-analysis

 

心房細動は運動による血圧上昇も含めた心負荷や交感神経の賦活化が影響していると思われる。

夜に筋トレをしてしまうと寝つきが悪くなったという経験のある人も多いのではないだろうか。

バズーカ岡田さんのショート動画であるが、こちらでも脚トレの日は眠れない、と話が盛り上がっている。

https://youtube.com/shorts/ZxmLSC7NV64?si=BexPX4f6fPj47FWW

 

 

雲のやすらぎプレミアム 三つ折りマットレス|イッティ公式ショップ 一番星

 

私の思う最悪の組み合わせは、

「筋トレ→寝つきが悪い→寝酒をする」

という流れだ。

 

飲酒は心房細動発症のリスクである。

筋トレで交感神経を活性化させ、その後飲酒というのはさらに心房細動を誘発しやすい。

 

下記の論文で提示されているJカーブがわかりやすい。

Extreme Exercise Hypothesis=過度な運動はむしろ健康にとってよくない可能性。

The “Extreme Exercise Hypothesis”: Recent Findings and Cardiovascular Health Implications - PMC

 

この論文によると、WHOで推奨されている運動量は

「週150分程度の中強度の有酸素運動、週75分程度の高強度の有酸素運動、あるいはその組み合わせ。」

「週2日程度はレジスタンス運動を組み入れる。」

 

しかし推奨量よりも多ければ3-4倍の運動量がもっとも効果的かもしれないとのことで、現状ではもっともメリットを享受できる運動量についてはまだ不明確であるようだ。

 

腹圧をかけてガンガン追い込む筋トレはせずに、気持ちのいい汗をかく程度の筋トレ+有酸素運動というのが健康面では最適解のようだ。