久しぶりの投稿になりました。
透析をされている方の看取りについて今回は書いていこうと思う。
透析をしていると寿命が短くなる?
透析を導入する際に、「透析を始めると長く生きられないんでしょ?」と聞かれることも多い。
透析患者さんの寿命は短いというのは残念ながら事実であるが、透析機器や新規治療薬の登場により年々改善してきているという側面もある。
透析患者さん全体で見たとき、5年生存率は50-60%前後となる。透析を開始して半数近くの方が5年後にはお亡くなりになっているという事実がある。
こういった情報のみが広がったことで、「透析=早死にする」「透析=悲劇」といったマイナスな印象を与えてしまうことも多いのではないだろうか。
実際のところ、生存率というのは統計学的にみられている事実ではある一方で、年齢や疾患により大きく変化するため、一個人にそのまま当てはめるのは間違いだ。
例えば、超高齢化社会となった現代では80代後半~90歳前半で透析を開始する人も少なくない。上記のデータにはそもそもの余命が短い方も含まれているということだ。
また、透析になってしまった原因疾患や個人の併存疾患によっても大きく変わってくる。
腎不全の原因が糖尿病である場合には、感染症や心血管リスクが高くなるため、生存率が他疾患と比べて低下しうるし、透析になった後もやはり管理が不十分であると心・脳血管疾患、感染症、骨粗鬆症など、種々のリスクが上昇してしまう。
現在の年齢や原因疾患、既往歴などを照らし合わせた上で、どれぐらいの余命になるか、というのは推定はできるかもしれないが、かなり不確実だ。
「透析になったらあとどのぐらい生きられますか」とおっしゃる方もいるが、正確にはお答えできないし、逆に端的に答えてしまう医師がいるとするとそれは誤りだと思う。
「透析をしないと、あとどれぐらいしか生きられない」というのは比較的推測できることもある。
上にも書いたように原因疾患、既往歴、これまでの腎機能の低下速度などから、透析を開始したほうがよいタイミングとして大まかな目安はお伝えできる。
透析患者の死因
わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在)によると、
①感染症
②心不全
③悪性腫瘍
④脳血管障害
⑤心筋梗塞
となっている。
厚生労働省の出している人口動態統計での死因は、
①悪性新生物
②心疾患
③老衰
④脳血管疾患
⑤肺炎
となっており、差があることがわかる。
透析患者において感染症が上位にきうる理由はいくつかある。
・コロナの際にも重症化リスクに挙げられていたように、腎不全があることは免疫力低下をきたしてしまう。透析により血液を浄化することができるが、やはり健常の腎臓に比べると不十分でああり、尿毒素が貯留することで易感染性の状態になってしまう。
・透析を行うためにシャントという血管を穿刺しなければならない。シャントではなくカテーテル留置が必要な方もいるが、どちらも血管内に異物が入るという点で血流感染を生じうる。清潔操作を行っていてもやはり感染のリスクは常にある。
・糖尿病を持っている方はそれだけでも感染症のリスクが上がるし、腎炎や自己免疫疾患を併発していてステロイドなどの免疫抑制剤は使用している方もいるので、それでも感染症リスクが上がる。
・透析では体にとって必要な蛋白なども除去されてしまう。また、週3回、1回4時間は同じ姿勢(多くは寝た状態)で過ごさなければならないため、高齢になるにつれて筋肉量の低下が懸念される。いわゆるフレイルやサルコペニアと呼ばれる状態になりやすく、易感染性につながる。
などなど...
こういった理由から感染症が第一位になると思われる。
第二位の心不全については、
・透析患者はリンやカルシウムのコントロールが不十分であると狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患のハイリスク (糖尿病が原疾患となるとやはり更なるリスクになりうる)
・大動脈弁狭窄症と呼ばれる弁膜症の進行速度が速い。
・尿が出ないことで体内の水分量の調整が透析に依存することになる。
・週3回で不十分な体液コントロールが続くことで心臓への慢性的な負担になる。
といった理由からであろう。
透析をしていることは不幸なのか?
「透析になったらもう終わりだ」とおっしゃる方もいる。
現在の血液透析は週3回、1回4時間を基本に行われている。送迎や待機時間も含めると半日以上潰れてしまう。透析後は血圧低下の影響から体調が悪くなるためずっと寝ているという人もいる。
これまでの日常から大幅に変わる生活スタイルから、ショックを受ける方も多く、透析開始時には受け入れ切れない方もいるだろう。
(そういった方にはまずは週1-2回から短時間の血液透析で開始してみるケースもあれば、腹膜透析をすすめることもある。)
しかし、透析室自体がある種のコミュニティとして機能していることも多い。
透析クール(月水金/火木土)や透析ベッドは患者さん毎に固定されることが通常であるため、毎回顔を合わす患者さん同士でのつながりができる。
また、透析室のスタッフとのコミュニケーションを楽しみに来院される方も多い。
実際の家族よりもお会いする頻度が多くなる患者さんもいるだろう。
(もちろん、人間関係なので合う合わないはあるけども...)
他者とのつながりが希薄であり孤独を感じている方は幸福度が低くなるといった研究もある。
これらを解消しうるという点で良い側面はあると思う。
透析しながら読書をしたり、映画をみたり。運動療法としてエアロバイクを漕いだり、寝たままできる筋トレに励んでいただくこともある。
もちろん、患者さんによっては血圧が不安定になってしまいそれどころじゃないという人もいるし、透析中にずっと眠ったままで昼夜逆転してしまいQOLが低下している方もいる。
だが、一概にみんながみんな不幸だと感じているということはない。
透析クリニックや病院によっては、患者会ができ、みんなでウォーキングやハイキングなどのイベントを企画しているところもある。
どのように最期を迎えるか
透析患者さんがお亡くなりになるケースで多いのは、上記で挙げたような感染症をきっかけに状態が悪化してしまう場合だ。
感染症そのものが重症化する場合もあれば、血圧変動の問題から「透析を継続できない」状態になってしまうこともある。
血液透析はやはり循環動態に大きく影響する治療であり、透析をすることで死期を早めることもあるため、そのような場合には透析を見合わせざるをえないと判断することもある。
原因が感染症のみならず、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患や大動脈弁狭窄などの弁膜症が背景にある場合も同様である。
急性期には透析用のカテーテルを挿入し、24時間かけてゆっくりと透析を行う方法(CHD, CHDF)もあるが、それにも限界がある。
カテーテルを挿入することでの様々なリスクとも隣り合わせになる。
尿が全くでない透析患者さんの場合、透析を行わなければ体にカリウム、尿毒素、水分が貯留してくることで個人差はあるが数日から数週間の経過でお亡くなりになることが多い。
患者さんの中には長年の透析や心疾患などの背景から、慢性的に「透析困難症」で苦しむ方もいる。透析困難症では、透析により血圧が著しく低下していまい、昇圧剤を使用したり、透析をゆっくり長めに行ったり、場合によっては週4日に増やしたりして対応する。
以上のように様々な理由で透析を見合わせざるをえないケースがあるのだが、やめることで数日~数週間で亡くなってしまうという現実に直面する患者さんやご家族としては、心理的にはかなり苦しいだろう。
しかし、透析を見合わせるとなった場合も、心不全、腎不全のターミナルとして諸症状の緩和ケアにより穏やかに最期を迎えることも可能である。
やはりある程度の年齢になってくると、家族内で「どのように最期を迎えるか」という人生会議を行っておく必要がある。
医療者でなければ、最期の場をリアルに想像することは難しいかもしれないので、かかりつけの医師がいれば相談してみるのもいいだろう。